2007年9月28日金曜日

メイキング・オブ・グレイスランド

ポール・サイモンのアルバム「グレイスランド」のメイキングDVDを観たことありますか? お勧めです。ポール・サイモンのファンの方にはもちろん、可能性というコンテクストから人生を生きるとどんな生き方が可能かということに興味のある方にもお勧めです。

グレイスランドはアフリカのリズム・音楽とポールの音楽センス・技術それから歌詞から生まれたルースで素敵な音の音楽です。このDVDを観ると、こんなにリラックスした音楽の背後に、様々な思考、技術、人の交流、楽しさ、成長、学習などがあったのかと驚かされます。このDVDは以前テレビで放映されたことがありますからご覧になった方も多いかもしれません。録音されたギターのパッセージを逆回しにして新しいパッセージを作ったり、というような試行錯誤を繰り返すシーンが観られて、音作りに興味のある人にはとても面白いのでは。私はポール・サイモンの歌詞とリズムが好きなのですが、DVDでは彼の作詞過程も観られて興味深かった。

ポールと一緒にこのアルバムを作ったアフリカのミュージシャンやアフリカ系のミュージシャンたちの在り方や言葉もまた素晴らしい。南アフリカからロンドンのスタジオに来たミュージシャンたちは、その雰囲気が圧倒的に平和なのです。この人はシャーマンに違いない、と思いました。

このDVDが何よりも素晴らしいと思ったのは、ここに登場する音楽を生きる人たちのコンテクストが、人間旧来の「何かが悪い・それを直す、変える」というコンテクストではないことをかいま見させてくれるところです。音楽を通じて楽しみ、悲しみ、世界を音楽で切り取る人々、自分の人生を音楽で構築していく人々・・・ここには確実に「何かが悪い・直す」という人間旧来の人生に対するコンテクスト以外のコンテクストがあります。

ポールも他のミュージシャンも「可能性」という言葉をよく口にします。ポールにとっては末広がりの形は可能性の形態です。「何かが可能だ」というコンテクストの中から人が人と交流して本当に創造的な仕事が生まれて来ている実例とも言えます。

日本の会社がこんなふうだったらどんなに楽しいことだろうと思わざるを得ません。
グレイスランドの中に私の好きなペースのパッセージがあります。DVDは、そのパッセージの誕生の経緯も語られます。こんな具合です。
  ベースギタリスト「今日は俺の誕生日だ。何かいいことができそうな気がするからやらせてくれよ」
  ポール 「そいつはいいな、やってよ」
こんな形で、素晴らしいベースギターのパッセージが生まれたのだそうです。
日本の企業の中でも、こんな形で仕事ができたらどんなにいいだろうか! 「今日は俺の誕生日だからいい仕事できる気がするよ」「そうか、それはいい、これやってよ」、そしてそこから素晴らしく創造的な結果が出てきたりしたらどうだろうか。

ポールは全編を通じて率直に飾らずに話しています。辛かったことも失敗も、自分にとってのあるがままを話せるというところに本物の強さを感じました。その人にとっての真実を語らせる、こちら側にはそれを聞き取る余地がある、ということは、特に意見を異にする同士の間ではとても大切。

ポールは、グレイスランドは、非常にパワフルなメッセージを優しく発信している、と言ってます。アフリカからのミュージシャンは「音楽は本来政治的だ。なぜなら真実が露呈されるからだ」と言っています。 

最後のポールの言葉もいいですよ。
「初めて出会う人たちを深い理解で繋ぐもの、それが音楽だ。」